さあ、溺れましょう

 ――したい、です。
 熱っぽい声でそう囁かれ、カンベエは思わず身を強張らせてしまった。
 きっとそうだという予感はあった。布団の上、寝間着姿の己を背後から抱き締めてきた副官の意図を、汲めない筈がない。だがその意図が分かるからこそ、カンベエは躊躇いを隠しきれなかった。逡巡がもともと口数の多くないカンベエを更に黙らせたが、何も答えないわけにもいかなかったから、カンベエはぎこちない所作で振り返ると、背後の男を見遣る。
「シチロージ」
 空の色を切り取ったような鮮やかな碧眼と、目が合う。腕の中に抱えた上官の体の強張りを感じたのだろう、シチロージが小さく首を傾げた。
「怖いですか?」
 ――怖い。その言葉が今の心情に一番近いような気がして、カンベエはそっと頷く。
「……そうかもしれぬ」
 この年若い副官と初めて情を交わしたのは、つい最近のこと。己を見つめるシチロージの熱の籠もった眼差しには気付いていたし、己の背中を躊躇なく預けられる男にその目を向けられることは決して不快ではなかったから、いつかこうなるかもしれないと思っていた。終わりの見えない戦で明日散るともしれない命同士、滾る熱を吐き出す術を求めて、互いへ手を伸ばし合ったのは、きっと自然の成り行きだったのだろう。そうして体を重ねた二人だったが、そこで一つ、カンベエの予想を違えていたことがあった。ともすれば役者と見紛うような年下の美丈夫たるシチロージは、その実獰猛な獣を己の内側に飼い慣らしていて、カンベエは褥の上、そのしなやかな色白の体に組み敷かれ、彼の熱に貫かれていたのだった。
 実を言えば、今よりずっと若い頃、カンベエは当時の上官に見初められ、体を開いた経験があった。けれどもそれは随分と昔の話だし、その相手の腕に抱かれて迎えた夜は片手の指で数えられるほどだったから、カンベエの体は男を受け入れることに全く慣れていない。そんな体ではシチロージの若く荒々しい慾を受け止めきれず、カンベエはその夜、焼けるような痛みと圧迫感に喘ぐことしかできなかった。
 その日の記憶が今、カンベエを自然と及び腰にさせている。勿論、シチロージとてただ乱暴なだけの男ではなく、彼との行為は確かに快楽も覚えたのだが、その愉悦はまるでカンベエを沼の底に引き摺り込むようで、その溺れるような感覚にも恐ろしさがあった。それが尚更、カンベエを躊躇わせるのだろう。
きっとまだ自分は体を開くことに抵抗があるのだと、カンベエは思う。
「……」
 そんなことを考えながら黙り込んだカンベエの体を、シチロージは抱き締めたまま離さない。けれどもそれ以上は何をするでもなく、少し困ったような、思案に耽るような顔でカンベエを見つめてくる。背中越しに伝わるシチロージの体温。吸い込まれるような碧眼が僅かに伏せられて、どこか憂いを帯びた様子さえも、鼻筋の通った顔立ちを引き立たせる。
「カンベエ様」
 静かに名を呼んでから、カンベエのうなじをシチロージの指先が掠める。槍を握る手に刻みついた胼胝が皮膚に引っかかり、心地よいような、むず痒いような感覚が込み上げた。触れられた部分から熱が点って、体内へじわじわと広がっていく。堪えるように息を吐き出しながら見つめる先、覗き込むように顔を寄せてきたシチロージに、唇を重ねられた。
 するりと口内に滑り込む舌が、カンベエの舌と絡み合う。呼吸の合間、唾液の混ざり合う音。目を閉じて口付けを受け入れるカンベエの胸元、寝間着の袷にシチロージの右手が入り込み、指先が胸の先端、小さく色づいた突起を摘み上げる。
「っ、ぅ」
 突然の刺激にカンベエは目を見開く。シチロージの指が乳首をこりこりと擦り、きゅっと抓るように摘んで弄ぶにつれて、そこからじんじんと痺れるような熱が、体中を駆け巡り始める。
「ん、ッ、うぁ、」
 それが快楽なのだと気付き始めた頃には、唇を解放されたカンベエはシチロージの両手で胸を抱かれ、二つの突起を優しく嬲られていた。指先でぴんと弾かれ、それから引っ張られ、押し潰されて、体内に点った情欲の炎が次第に昂っていく。愛撫によって乳首はぷくりと尖り、シチロージの手の中でその存在を主張し始め、つんと立ったそれを更に摘まれ、指先で転がされる。優しくも容赦のない手つきに身悶えるカンベエは己の耳元、シチロージの熱の籠もった囁きを聞いた。
「前は急いてしまって、すみません」
「ぁ、あ、シチ……、」
 耳に流れ込むその声さえも、カンベエの劣情を煽り立てる。震える耳朶を熱い舌がぺろりと這って、その箇所から広がる堪えようのない愉悦に、カンベエは微かに呻く。
「私だけ、気持ちよくなっちまいましたから」
 左手はそのままカンベエの胸を嬲りながら、シチロージの右手が体を這い、割れた腹筋をなぞり、下腹部へと向かう。そろそろと動いた手が寝間着の内側、下帯越しにカンベエの逸物へと触れ、その瞬間、腰へと直接響く悦楽がカンベエを襲った。
「っは、ァ、」
 乳首を愛でられ熱を与えられていた雄は既に蜜を滲ませて、下帯が湿り気を帯びている。その薄布をシチロージの手がずらして、緩やかに鎌首をもたげる竿が、重く熟れるふぐりが、呆気なく晒された。たったこれだけの愛撫でもう反応している己の体が信じられず、息を呑むカンベエの耳のすぐ傍で、シチロージが小さく笑う気配。
「今日はカンベエ様も一緒に、気持ちよくなりましょうね」
 優しい言葉の内に、隠しようのない牙が覗いている。思わず振り返った先、己の副官の笑顔は、まるで獲物を前にした肉食獣のようだった。

*    *    *

 くちゅ、と部屋に響く、卑猥な水音。
「んァ、あ……!」
 体内をまさぐる指は一本、それでも堪えようのない違和感に身を捩る。そんなカンベエの体をがっちりと抱き締めたシチロージに足を開かされ、カンベエは菊座を指で解されていた。
 寝間着はそのままに、下帯だけを剥がされた格好。かぱりと足を広げられ、恥部を惜しげもなく晒す姿が、カンベエの羞恥心に火を点ける。それ以上に、シチロージの指がわざとらしく水音を鳴らしながら蕾へと押し入るのが、カンベエには堪らなく恥ずかしかった。器用な指が緩やかな抜き差しを繰り返し、腸の内側の粘膜を掻き回す。あれだけ獰猛な顔をしていた割にシチロージの動きには性急さがなく、固く閉じた其処を丁寧に解している。それでも指一本分の圧迫感にカンベエの体は戦いて、所在の無い手が、寝間着の裾をぎゅっと握り締める。
「もう少し、力、抜いて……?」
「む、りだッ、はぁ、んウっ」
 シチロージの声に、首をぶんぶんと横に振る。体は前戯で熱を帯びつつあるが、心は熱を受け入れることへの恐怖が先立つ。カンベエはきっと、溺れることが怖いのだ。シチロージに触れられ、熱を与えられた部分から自分が溶けていって、まるで自分でなくなるような気持ちになる。それがどうしようもなく怖くて、受け入れることができない。
 まるで子供のように首を振るカンベエに、シチロージは何も言わなかった。けれども腰に添えられていた手がそっと動いて、カンベエの足の間、勃ち上がりつつある逸物を包み込む。
「っ!!」
 浅黒く脈打つ欲望が、シチロージの色白の手に握られ、緩やかに扱かれ始める。ひたひたと滴る先走りを擦り込むように上下する掌。積年の戦で刻まれた胼胝で裏筋を良い塩梅に擦られ、カンベエは自らの雄を愛でられる快感に仰け反る。強張っていた体が悦で解れ、自然と緩んだ菊座の中に、指がもう一本増える。
「ひ、ァうん、」
 二本の指が、ぬちゅ、と蕾を押し広げるような動きを見せた。内側の襞が外気に晒されるような、これまでに感じたことのない感覚に、ぞくりと背筋が震える。一瞬の恐怖は、雄を扱くシチロージの手によってすぐに溶かされて、込み上げてくる熱の捌け口を求めて、カンベエはその手に自らの慾を擦り付けるように腰を揺らしてしまう。
「カンベエ様、かわいい」
 うっとりするような声が、耳元で囁く。こんな男がかわいいわけあるかと思ったが、快感を与えられ続けるせいで言葉が出てこない。
 尻の中を指で丁寧にまさぐりながら、シチロージの手が硬くなった竿を小刻みに擦り、指の腹で先端の鈴口を嬲る。短く切られた爪が尿道口を柔く引っ掻いて、痛み混じりの快感に仰け反る体内へ、更に指が入り込む。内側の粘膜をくちゅくちゅと掻き回し、何かを探るように指の腹を壁に押し付けては緩める丁寧な動きに、カンベエの中で更に熱が昂っていく。シチロージの手は、男の体を開くことに慣れていた。初めて枕を交わしたときも、結局はこの男の巧みさに呑まれていったことを、カンベエは熱に侵された頭でぼんやりと思い出す。
「かわいくって、どうにかなっちまいそうです」
「は、シチ、ひゥ……!」
 ぐちゅ、と一際大きな音と共に指を抜き差しされ、より深い場所を探られた瞬間、何かを押し上げられるような感覚とともに、電流のような快楽が全身を走り抜けた。
「っ、ァ、」
 息が詰まるほど、気持ちいい。指で内側を解されるのとは明らかに違う愉悦に頭が揺さぶられ、視界がちかちかと瞬く。何が起きたのか分からないまま、は、は、と荒い呼吸を繰り返すカンベエの耳元で、シチロージが微かに笑う。
「ここ、なんですね」
「な、にが、あ、ひァ、やめッ!」
 シチロージの指が、体の内側のその一点を狙ったように刺激し、その度に突き上げるような快楽が、脳天から足先までがんがんと響き渡る。それと同時に雄の象徴も扱かれて、カンベエは何も考えられなくなっていた。
 怒張からとめどなく溢れる蜜が股間を濡らし、菊座の辺りにまで滴って、シチロージの指の動きに合わせて絡み付くような水音を鳴らす。腸壁の内側、僅かに円いものを二本の指でぐりぐりと責められ、蕾が痙攣するようにひくついて、まるで銜える指を強請っているようだった。それが堪らなく恥ずかしいのに、自分でも止められない。全身を快感に支配されて、与えられる熱にただ、溺れてしまう。
「や、もぅ、出るっ」
 ぞくぞくと、何かが体の底から込み上げる感覚。それが何なのか分からぬわけもなく、ただそれに身を任せることへの羞恥に勝てない。カンベエはむずかるように首を振り、喘いだが、シチロージは構わず、カンベエの体に快楽を与え続けてくる。
「良いですよ、たっぷり出して」
「ふァ、っ、ヒ、くぅ……!」
 シチロージの手は容赦がなかった。絶頂が近いと見るや、カンベエの逸物を握る手を大きく上下させながら、腸壁の中の一カ所を指でぐりぐりと嬲る。駄目押しのような責めを与えられて耐えられるはずもなく、カンベエは背を大きく撓らせながら、シチロージの手の内にびしゃりと精を放った。
「あ、はぁ……ァ、」
 がくがくと震える体。頭の中が真っ白に弾けて、どくどくと脈動する自身から精が迸るのを思考の隅で感じる。暴力的なほどの絶頂の快感。その余韻に浸る体は、シチロージの手によって更に二つに折られるように足を曲げられた。カンベエの逸物から離れた白い手がその逞しい足を持ち上げるようにして、まるで自身の恥部を見せつけられるような体勢で、シチロージの指がもう一本、ずぶりと菊座に突き入れられる。
「ひ、っあァ!」
 上擦った声を漏らしながら、カンベエは身悶える。圧迫感とは明らかに違う快楽が、汗ばんだ体を支配していた。体内の一番敏感な場所を指で責められる。わずかに円みのある場所を指の腹で押し上げられ、熟れた粘膜を指で掻き回される。ひくつく蕾がきゅうと収縮して、まるで責めを強請るように指を締め付けてしまう。シチロージにも当然それが伝わって、熱の籠もった声が、耳のすぐ近くで響く。
「カンベエ様の中、指に絡み付いてくる……」
「ひィ、言う、な……ッ」
「どうして? そんなに欲しがるあなたが、かわいくって仕方ありません」
 揶揄うような口調が、カンベエの羞恥と、そして情欲の炎を一気に煽る。ねえ、と呼びかける声が絡み付いて、その艶にびくりと身を震わせると同時に、カンベエはシチロージに背中を押され、体を丸めるような姿勢を取らされる。
「カンベエ様、ここが気持ちいいんでしょう?」
「はぅ、ぁア、っ」
 カンベエの視界には、はちきれんばかりに膨らんだ己の逸物があった。触れられていないにも関わらずびくびくと震え、脈打って、先端からしとどに先走りを垂れ流している。三本の指を受け入れている体は圧迫感を覚えるどころか、その指がもたらす愉悦に震え、その熱に溺れ始めている。シチロージの指が体内の最も敏感な場所を優しく擦って、カンベエは嬌声と共に身を捩る。
「ここはね、そういう場所なんです」
「し、ち、ッあ……!」
「だから、カンベエ様、存分に気持ちよくなって」
 シチロージに言われるまでもなく、全身を駆け巡る快感にカンベエは喘ぐ。それに身を委ねることが恐ろしくもあったが、それほどに快楽は容赦なくカンベエを襲って、抵抗ができなくなっていた。あまりにも、気持ちいい。ぬちゅぬちゅと体内を蹂躙する指に、その場所をぐっと押し上げられ、その瞬間、あまりの快楽にカンベエは大きく仰け反った。
「っ!!」
 体内から込み上げ、迸る脈動。目の前で己の雄が震え、びしゃ、と白濁が溢れ返る。勢いよく迸ったそれは下を向いていたカンベエの頬にまで飛び散って、カンベエは呆然とその熱を受け止めた。自分の体がどうなったのかまるで分からないが、体の内から込み上げる逃れようのない愉悦に突き上げられ、カンベエは精を放っていたのだった。
「よくできました」
「……ぁ、」
 笑いの籠もった声に、ふと我に返る。シチロージの悪戯っぽい笑顔がカンベエを覗き込み、上気した頬に散った精をぺろりと舐めた。その舌の熱さにさえも体内の慾が燻り、力の抜けた体躯をシチロージの腕に預ける。
「気持ちよかったでしょ?」
 精で汚れた顔で、カンベエはぼんやりと頷く。素直な反応にその笑みを深くしたシチロージに更に足を広げられ、まだ体内に残っていた指をぐちりと掻き回される。
「ひゥんッ!」
「カンベエ様、見えますか……?」
 見えないわけがなかった。引き締まった腹にも、下生えにも白濁が飛び散り、どろどろに濡れた逸物はまだ勢いが衰えず、緩く鎌首を擡げている。ふぐりの更に下側、開かされた浅黒い両足の間に、シチロージの白い手。はっきりとは見えないが、指が確かに体内へ潜り込み、カンベエの中を堪能している。
「いい具合になってきましたね」
「ぁ、あァ、んぁッ」
 シチロージの指が、動く。体内の襞がまさぐられる感覚が下半身に響き、そのぞわぞわとした快楽を煽るように、湿った水音がくちゅくちゅと淫靡に聞こえてくる。楽しむような、煽るようなシチロージの声にも、その厭らしい水音にも耳を塞ぎたかったが、快楽に溺れる体はまるで言うことを聞かない。
「カンベエ様、そろそろ」
 若い体に背後から抱きすくめられ、カンベエの背中に熱く硬いものが当たる。それが何なのか分からないほど鈍くはなかったから、びく、とカンベエの背筋が震えた。
「シチ……っ」
「怖い?」
 分からない。分からないが、きっとそうなのかもしれない。カンベエは自分が、幼子に戻ったような心持ちがした。心細さに耐えられず小さく頷けば、シチロージの指がずるりと引き抜かれる。
「は、ァうっ」
 震えるカンベエの内に一瞬、名残惜しいという気持ちが浮かぶ。それだけ己の体が熱に溺れつつあることは分かったが、この先に待ち受けることを思うとやはり、怖いという気持ちを拭えなかった。
「見なければ、平気ですか?」
「っ、あ、」
 それも、よく分からない。返事ができないでいるうちに、体を前に倒された。褥の上、四つん這いの姿勢になって、皺の寄った寝間着を腰までたくし上げられる。露わになった尻を鷲掴みにされ、その割れ目に、ぴたりと押しつけられる灼熱。
「入れますよ、」
「ァあ、あ……っア!」
 焼け付くような巨大な熱がゆっくりと、カンベエの体を貫いていく。体内を犯す容赦のない圧迫感に上体が崩れ、腰だけを上げたような姿勢で必死に敷布を握り締める。
 熱い。苦しい。シチロージが動くたび、漏れる上擦った声は悲鳴にも似ていた。震えるカンベエの腰へ、シチロージの手が回される。緩やかに勃ち上がった逸物に熱い掌が触れて、そのままゆっくりと上下に扱き始める。
「ッひぁ、は、あぅ……!」
 雄の敏感な部分を触れられ、刺激され、体内で燻っていた快楽の炎が一気に燃え上がる。重く熟れた陰嚢を柔く揉まれ、それから脈打つ竿を掌で擦られて、びりびりと痺れるような快感が体を駆け巡り、カンベエの口から次第に甘い声が漏れ始める。
 怒張を愛でられたことで尻を苛む圧迫感がいくらか紛れて、その隙を突くように、シチロージの慾が少しずつ、カンベエの体内へ入ってくる。緩やかな抜き差しを繰り返しながら、逞しい竿がカンベエの内側を掘削し、敏感な粘膜の内側を擦る。その先端がある一点を掠めて、カンベエは腰を跳ねさせた。其処が指で嬲られていた敏感な箇所だと気付いたときには、シチロージの逸物でその一点を狙いすましたように突き上げられて、体内から込み上げ全身を支配する愉悦に、カンベエは瞬く間に呑み込まれていく。
「良くなって、きましたか?」
「あ、っヒぁ、あァ、」
 疑問の形ではあったが、きっとシチロージは確信している。噛み殺せない嬌声。淫らに揺れ、シチロージを誘う腰。カンベエの体が慾に溺れ、更なる熱を欲している。自分でもそれが分かってしまうのが、堪らなく恥ずかしい。
「カンベエ様、かわいいです」
「っは、ぁ、シチ、ロージ……ッ」
 シチロージがまたそんなことを囁いて、カンベエの逸物を責めながら腰を動かす。シチロージの手の中で怒張が震え、シチロージの熱を銜えた菊座が激しくひくつく。二カ所から響く水音が混ざり合い、脳を、理性を、そしてカンベエの中に残った羞恥心を溶かしていく。
「だから、我慢しないで」
「あッ、ぁあ、あっ……!!」
 全てを赦すようなシチロージの声に、カンベエは身を委ね、そして仰け反りながら精を放った。
 敷布に飛び散る白濁。体がシチロージの熱を締め付け、己の体内のものの大きさを否応なしに感じさせられる。その瞬間、背後でシチロージの押し殺した呻き声。その両手ががっしりと、カンベエの腰を掴む。
「っ、カンベエ様……、すみません、」
 何が、と聞く暇は与えられなかった。シチロージの熱が抜けかけて、そして奥を思い切り突き上げられ、カンベエの視界があまりの衝撃とあまりの恍惚とでちかちかと瞬く。
「ひッ!? あ、ひァ、うあっ……!」
「すみ、ません……カンベエさま、我慢、っ、できない、」
 今までの穏やかさをかなぐり捨て、射精したばかりの体を荒々しく揺さぶられる。カンベエを慮って彼なりに耐えていたらしいシチロージの慾を、そのありのままの大きさを、熱さを、激しさを、全て容赦なくぶつけられる。
 菊座の縁が捲れ、内側の粘膜を肉棒でごりごりと抉られる。内臓を潰されるような圧迫感の中に、シチロージによって昂らされた確かな快楽があって、それに溺れるカンベエは、いつの間にかその悦を強請るように腰を振り、シチロージを受け入れていた。自分の体内が、シチロージの怒張に絡み付き、きゅうと締め付けるのを感じる。シチロージの呻き声、腰骨同士がぶつかるほどの勢いで打ち付けられ、奥底を責められる。体の深い部分を突き上げられ、カンベエはもう、シチロージのことしか考えられない。心も体も満たされて、自分を犯す男の、はち切れそうなほどの熱を感じる。
「っく、も、出る……ッ」
「は、ぁあ、ッひ、あ……ァ!」
 切羽詰まった声と、カンベエの体内に焼け付くような熱が注がれるのがほぼ同時。そのあまりの熱さがもたらす恍惚に耐えられず、カンベエもまた精を放っていた。
「はぁ、ッ、カンベエ様……、」
 強く腰を引き寄せられ、カンベエの体内にどくりどくりと灼熱の液体が注ぎ込まれる。その温度に慾を煽られ、絶頂の余韻に呑まれたカンベエは微かな喘ぎ声を漏らす。震える膝。高く掲げるようにした腰から力が抜けて、その瞬間、ずる、と体内の熱が、おもむろに動いた。
「ああぁっ、」
 熟れた熱で弛緩した内側を、熱いもので擦られる。菊座からシチロージの逸物が引き抜かれ、手も離されて支えを失った体は糸が切れたように褥の上へと崩れ落ちた。ひくひくと開閉する蕾から、熱い液体がこぼれる感触。それがシチロージの放ったものなのだと理解が追いついた頃には、カンベエの体はシチロージの手で仰向けにされていた。
 抵抗する間もなく、年若い副官が股の間に入り、カンベエの両足を掴む。造作なくその両足を持ち上げ、己の肩に乗せて、その手がカンベエの腰を掴み、ぐっと引き寄せる。
「ひぅ、ッ、」
 白濁を漏らしながらひくつく菊座に、シチロージの固い熱が当たる。びくりと緊張した体で見上げた先、シチロージの端整な顔にはびっしりと汗が浮かんでいた。繕ってはいるが、獰猛さを隠しきれない笑顔。カンベエを獲物と見定めた男のぎらつく碧眼に見つめられ、身が竦む。
「まて、シチ、頼む……」
「カンベエ様、すみません……なるべく、優しくしますから」
 言うなり色白の逞しい裸体が被さって、唇を奪われる。まるでこれからのことを誤魔化すような口付けを、カンベエは拒めない。己の体が、心が、恐れながらもシチロージを求めていることに気付いてしまったから。この男に与えられる熱に溺れる心地良さを、知ってしまったから。
 熱の切っ先が、カンベエの体を抉じ開ける。白濁を注がれ熱く爛れた内側が、一度目よりもはるかに容易くシチロージを受け入れるのを感じながら、己の内を勢いよく突き上げる荒々しい熱に、その容赦のない快楽に、カンベエは今度こそ、嬌声を耐えられなかった。