獣の交わり 1

 初めてあいつの顔を見たのは、あいつが公司に着任したときだ。
「新しい同志を紹介したい」
 華泰の言葉と共に壇上に立った男を一目見るなり、好みだ、と思った。スーツの上からでも分かる引き締まった長身の体躯。腰の辺りまで伸ばした黒髪、端整な顔立ちにはどこか不遜な笑顔が浮かんでいて、それなのに血の色を宿した眼は少しも微笑んでなどいない。そんな男が見た目だけの笑顔を貼り付けたまま、いかにも人聞きのいいスピーチを始めたが、俺はその内容なんて、これっぽちも頭に入ってこなかった。
 ――抱きたい。
 もし俺の近くに心を読める能力者が居たら、俺の不埒な欲望が筒抜けだっただろう。幸いにも見渡す周囲に心当たりのある同僚はおらず、俺はあいつがスピーチを続ける間、その冷たく整った相貌を凝視していた。
 結局あいつが話を終えて壇上を去るまで、一度も目が合うことはなかった。それはそうだ、あいつから見れば俺は大勢の「どうでも良い観客」の一人だ。あいつが何者かは知らないが、俺たちのことを歯牙にもかけていないのはその醒めた眼差しからも明らかだったし、その男の目が欲望で蕩ける様を見てみたかったが、そんな姿はどうにも想像に難しかった。
 そもそもあいつは――白龍という名の男は、唐突に現れ、公司の幹部の座に収まった。一方の俺は、公司に所属する一介の師兵に過ぎない。その気性の荒さから組織に馴染めず去った仲間も居る中、俺は数少ない半獣人の師兵として、地下世界の治安維持のために一役買っている程度の一兵士だ。そんな俺が、公司の命運を握るといっても過言ではない幹部と関わる機会など、あるわけもない。だから俺はあの日抱いた妄想を、心の奥底に封印しようとした。
 ……けれども運命というのは、奇妙なものだ。
「先週の血液検査の結果が出た」
 診察室の椅子に座った俺にそう言ってプリントアウトされた紙を手渡すのは、他ならぬあの白龍だった。彼はどうやら研究面に造詣が深いらしく、半獣人の定期健診やその他の様々なデータの採取は、今後この男が直接担当していくらしい。俺がそれを知った日は、あまりの偶然に信じてもいない神へ感謝の祈りを捧げたくらいだ。だからといって白龍に手を出す勇気はなかったが、この男と少しでも関わる機会ができた、それだけでも俺にとっては十分なことだった。
「特に問題点は何もなし。すこぶる健康体だな」
 ワイシャツの上から白衣を羽織り、長い髪を一つに束ねた白龍が、足を組み頬杖を突いたまま気怠げに言う。こいつが興味を惹かれるのは俺のデータだけで、俺自身には何の興味も持っていないのだろう。机の上に印刷されたデータの紙束から全く動かない目線。前回血液のサンプルを採取したときも、この男とは一度も目が合わなかった。そしてそれを良いことに、俺は白龍の端整な顔を穴が開くほどじっと見つめている。この男の眼が情欲で潤み、口元が唾液と精とで汚れる様を想像して、一人、悦に浸る。
「そういえば、お前」
 だから突然、予想だにしない言葉を投げかけられて、俺は飛び上がるほど驚いてしまった。
「何か、俺に言いたいことがあるのではないか?」
 不埒な妄想から一転、現実に引き戻された俺の顔を、白龍が真正面から見据えている。初めて目の当たりにした深紅の双眸はまるで宝石のようで、引き込まれるほど美しかった。
 その目が、薄い唇が、艶めかしい笑みを浮かべる。俺は信じられないものを見た気分になって、その思わせぶりな笑顔から目が離せない。そこでようやく、俺はこの男が、俺の気持ちを見透かしているという確信を抱いた。俺の邪な願望を見抜いて、分かった上で煽っている。これは、そういう笑顔だ。
「……もし俺が、アンタを抱きたいって言ったら、アンタはどうする?」
 隠したところで見抜かれているのだから、隠すのは止めた。本能的な部分が、それが最善だと語りかけていた。分かった上でこいつが尋ねてきたというのは、つまりそういうことだ。下手に取り繕うのは、あまりにも悪手だろう。
 案の定、白龍は口元に薄く浮かべていた笑みを消さなかった。ぞっとするほど美しい瞳が、俺の頭の先から爪先までを隈無く見渡して、頬杖をついたまま、長い足を優雅に組み直した。
「良いだろう」
「は?」
 即答だった。思わず拍子抜けして、聞いた側の俺が素っ頓狂な声を出してしまうほどには。
「丁度、相手に困っていたところだ」
 その心中を何一つ見透かせない男は、倫理観をどこかに置き忘れてきたようなことを平然と口にして、それからくつくつと、喉の奥で笑った。

 白龍の執務室に呼び出された俺は、そこから扉一枚を隔てて繋がった居住スペースへと通される。どうやら幹部や上位師兵の部屋の構造はそうなっているらしい。俺のような一兵卒の部屋とは大違いで、戸惑いを隠せない。
「シャワーはどうする?」
 寝室に入るなり、何の前置きもなく白龍が服を脱ぎ始めて俺は目を剥いた。いかにも値の張りそうなスーツを無造作にハンガーへ吊るし、ネクタイも解いて、ワイシャツの下から下着が見えるか見えないかという格好になってから、ごく当然のことのようにそう聞いてくる。これまでセックスしたことのある男は何人か居るが、ここまで恥じらいやムードのない相手もそう居ない。俺が何も返せないでいると、白龍ははあ、と一つ溜め息を吐いた。
「先に入る気がないなら、俺は中を洗ってくるが」
「あー、セックスの前は別に良い。アンタが良ければだけど」
「特に気にしないな」
「じゃ、行ってきてくれよ。俺はここで待ってる」
 寝室の外へと消えた白龍を見送って、俺は広いベッドの縁に腰掛ける。自分の部屋とは桁違いであろう高級な家具に、手足を伸ばして寝転がってみたい気持ちもあったが、初めて通される他人の部屋では少々憚られた。
 手持ち無沙汰になった俺は、改めて白龍の寝室を見回す。個人の趣味を反映した調度品は何もなく、必要最低限の家具のみが置かれた、殺風景な室内。誰もこの男の素性を知らないのだと、師兵仲間が噂しているのを聞いたことがあったが、少なくともこの部屋からは、白龍という男の人となりを知ることは叶わなさそうだった。俺が分かっているのは、抱きたいという俺の誘いにあいつが乗ったという、ただそれだけ。
 ――相手に困っていたところだ。
 俺は白龍の言葉を思い出す。俺が抱きたいと言ったときの、動揺の一つもない表情も。
 あの男の反応を見る限り、彼は同性から欲望を向けられることにも、そして実際に抱かれることにも慣れているし、それが決して嫌いではないのだろう。不埒な欲望を向けた俺としては、話が上手く進むこと自体は願ったり叶ったりだが、あまりの躊躇のなさに、話を持ちかけた側の俺が若干恐ろしくなっている。何を考えているのかもまるで分からないから、余計に不安が煽られるのだろう。
「なんだ、まだ服も脱いでいないのか」
 じっと思索に耽っていた俺は、その声を聞くまで寝室の扉が開いたことにも気がつかなかった。慌てて顔を上げた目の前、白龍が不思議そうな顔で立っている。いつでも準備ができていると言わんばかりに、タオルを腰に巻いただけの格好で。傷の一つもない体は服を着ていたときには分からなかったが、想像以上に逞しく筋肉が乗っていて、これからこの体を抱くのだと思うと俺はさっきまでの不安が吹き飛び、俄かに興奮を隠せなくなった。
 白龍のじとりとした目に急かされるように服を脱ぎ、大して畳みもせずに放り投げる。それに合わせて白龍も自身の腰に纏っていたタオルを解き、床にぱさりと落とした。抱かれる側だというのに股間にぶら下がる性器はかなりの質量を備えていて、筋肉質の体とも相俟って白龍が紛うことなき男であることを示していた。
 そんな男が俺の前に跪き、俺が服を脱ぎ終わって再びベッドに腰掛けるとその膝の間に割って入ってくる。彼が凝視するのは俺の性器だった。赤子の腕の太さほどはありそうな竿の根本に、睾丸とはまた違う隆起が備わっている。半獣人の中でも俺は獣性が身体面によく表れていて、だから性器の構造も獣のそれに近い。
 そもそもが巨根だという自覚はあるし、その上に人間離れした形状をしているので、一夜の相手探しにも一苦労だった。何せ、この逸物を見て泣きながら逃げ出した男も居るくらいだ。だから今回も、拒絶される可能性はゼロではないとは思っていた。
「ほう……イヌ科か、これは?」
 けれども白龍は、見たことがないほどに目を爛々と輝かせ、俺の性器をまじまじと観察し始める。それは性的な興奮というよりも、科学的な好奇心に勝てないといった様子だった。長い指が竿をそっと握り締め、固さを確認するようにやわやわと手が動き、そのもどかしく柔らかい刺激に俺は唇を噛み締める。
「骨まで備わっているのか……本当にイヌのペニスに近い……半獣人は皆こうなのか? 今度の健診で全員の生殖器を確認してみるか……?」
 最後の方であまりにも不穏な言葉が聞こえ、それは止めた方が良いだろうと思ったのも束の間。吐息さえ感じるほど近付いた白龍の口に、ぱくりと先端を咥えられる。
「っ!」
 そのまま喉の中へと、性器が誘われる。頬の内側の粘膜が竿に絡みつき、熱い舌がれろりと裏筋を這う。ちゅぷ、じゅぷ、わざとらしく湿った水音を立てながら白龍が顔を動かして男根を出し入れするたび、俺の中をぞくぞくとした快感が走り抜けていく。
「くッ、ふっ、あ……!」
 白龍のフェラチオは驚くほど巧かった。まるで精を搾り取るように舌が這い回り、俺の性器を吸い上げる。下半身へダイレクトに響く愉悦に息が乱れ、俺はシーツを強く握り締めた。呆気なく射精するのは何となく負けた気がするからと、必死に耐える俺の様子に気づいたのか、跪いた白龍が挑発的な眼差しで見上げてくる。耐えられるものなら耐えてみろ、そう言いたげな目をしたまま、白龍が一度口内のぎりぎりまで性器を抜いて、また喉の内側まで滑り込ませ、じゅる、と汁を吸い上げる。
「ぅう、クゥ……っ!」
 全身の熱が、白龍の口内に収まった性器の先端に集まる。敏感になった男根を駄目押しとばかりに舌で嬲られた瞬間、俺の中で溜まった熱が爆発した。性器の根本の瘤がむくむくと膨らむのとほぼ同時に頭の中が真っ白になり、俺は白龍の頭を押さえつけて顔を上げられないようにしたまま、その喉の奥に向かってどぷりと精液を叩きつける。
「……!」
 頭を押さえた一瞬、白龍の体がびくんと震えたが、驚いたことに俺の精液の奔流を彼は平気で飲み下しているようだった。性器を口から引き抜く瞬間、口内に残った精液が少量、唾液と共に糸を引いて零れ落ちるのを、白龍の指が拭って口へと運ぶ。俺の目を見上げる白龍と目が合って、俺はごくりと生唾を飲み込んだ。はっきり言って、想像していたよりも遙かに淫らな顔だった。そしてそんな淫靡な空気を、白龍は意図して醸し出し、俺を挑発していた。
 だが艶めかしい色を瞳に宿していた男は、射精後の俺の性器を見て再び研究者の顔に戻った。性器の根本で膨らんだ亀頭球に興味を惹かれたらしく、こちらが恥ずかしくなるほどに凝視してくる。亀頭球の固さを確かめるように指で摘まれて、俺は剥き出しの刺激に情けなく悲鳴を上げそうになった。
「イヌの習性には詳しくないが、これはどれくらいで収まるんだ?」
 せめて同じことを聞くにも雰囲気というものがあるだろ、と俺は思った。
「10分くらい、じゃねえかな……」
 正確に測ったことなど当然ないから、実際のところは分からない。けれどもそんな答えでも、白龍は満足したらしかった。これまでセックスしたどんな相手よりも巧緻なフェラチオに呑まれて息を荒くしていた俺は、そこでふと、跪いた白龍の足の間、その性器が質量を増して膨らんでいるのに気付く。
「アンタ……人のチンコしゃぶって勃ててんのかよ」
 足の指先で固くなり始めた竿の裏をぐり、と押すと、白龍がひゅっと息を詰まらせる。足先での愛撫に合わせて身を捩らせながら、けれども俺を見上げる目には、どこか挑むような輝きが灯っていた。
「コレで犯されると思うと、興奮もするさ」
 涼しい顔でそう言ってのける白龍の恥じらいのなさと、この男が俺に犯されることを拒絶していないことの両方に、俺は驚きを隠せない。
「アンタのケツに入んのか?」
「慣らせば入らんこともないだろう」
 やってみなければ分からんが。こともなげにそう言った白龍が、腰を僅かに浮かせる。その手がするすると彼の尻の側へと向かうのを見て、俺は思わずその肩を掴んで動きを止めていた。このままだと完全に白龍のペースに呑まれることが分かっていたのもあるが、これから抱くことになる男の体がどんなものなのか、実際に知りたかったのだ。
「自分で慣らすのかよ。俺にやらせろ」
「お前、」
「良いから、立てって」
 抵抗されるかもしれないと思ったが、ぴくりと眉根を寄せた白龍は意外なことに「分かった」と頷いて、俺の言葉通りに立ち上がる。思いの外従順な態度を不思議に思いながらも、俺は部屋の中を見渡し、ベッド脇の小さなテーブルに目を留めた。
「あれに手をついて、ケツを突き出しな」
 顎で示してみせると、白龍が無言でそれに従う。男の長身に対して低いテーブルに手をつくことで、身を屈めてより尻を突き出す姿勢になる。そのちょうど後ろ側に立った俺は、隠すことのできなくなった白龍の肛門を目の当たりにすることになった。ぷくりと赤く熟れたそこはきゅっと引き締まっているようで、よく見ればひくんひくんと物欲しげに小さく開閉していて、刺激を欲しているのは誰の目にも明らかだ。
「すっげーヒクヒクしてるんだけど、そんなにチンコ突っ込まれたいの?」
「……御託は良いから、早く慣らせ、ッ、」
 窄まった箇所を軽く指で撫でるだけで、白龍の声が上擦る。随分と可愛らしい反応だ。俺は面白くなってきて、少し開き気味の足の間、緩やかに鎌首を擡げている性器の、ずしりと熟れた睾丸の裏をかりかりと爪の先で引っ掻いた。
「んくゥッ!」
 白龍の腰が跳ね、半勃ちになった陰茎の先端から先走りがぼたりと滴る。俺はその透明の蜜を指で拭って濡らすと、ひくひくと疼いている肛門を抉じ開けるように、湿った中指をぐり、と捻じ込む。
「あ、くゥんッ……!」
「ケツの力抜けよ。入んねえだろうが」
 息を吐き出すのと同時にほんの少し力が緩まった瞬間を逃さず、指を奥まで押し込む。白龍の中は熱く、内壁が指へと絡みつき、締め付けたかと思えば緩まって、指を必死に銜え込む。俺が直腸の中で指を抜き差しするのに合わせて、白龍の腰がぬらりと揺れる。尻をこちらに突き出して、まるでもっと責めを強請るようにくねらせてみせる。
俺はそれに応えるように、白龍の中を責める指を、二本、三本と増やしていった。ぬちゅぬちゅと音を立てて指を動かし、直腸の内壁、熱く熟れた襞を掻き回す。ひくつく肛門の 窄まりを解きほぐすように指を抜き差ししていたとき、俺の指先が内壁の向こう側の微かな膨らみに触れて、その瞬間、白龍の体が大きく仰け反った。
「ひぐッ、」
「あー、ココね」
「ァが、や、めッ、んヒっ!」
 男の性感帯である前立腺を、指先で押し潰すようにぐりぐりと容赦なく刺激する。白龍が身をしならせ、前立腺への刺激に反応して腰をびくびくと震わせる。足の間で揺れる陰茎ははちきれんばかりに勃起して、俺の指を呑み込む直腸の中は熱でどろどろに溶け始め、内側の襞を厭らしく痙攣させていた。
「へえ、もうイきそうじゃん」
「ッお、ふゥンっ、ぁ、ぐ……っ!!」
 ごり、と指先で抉るように前立腺を押した瞬間、白龍の体が一際大きく痙攣した。
 がく、と首が仰け反り、勃起した男根がぶるりと揺れる。白龍が絶頂を迎えたのは明らかだったが、彼が精を放った様子はなかった。俺が肛門を苛んでいた指をずるりと引き抜くと、切ない吐息と共にぶるぶると白龍の太股が震え、腰の力が抜けて体勢が崩れそうになる。俺はそんな男の引き締まった尻を一度、ばちんと叩いた。
「ひゥっ!?」
「おら、ちゃんとケツ上げろ」
「ひゃ、ふ、」
 またしても従順に首を振った白龍が、姿勢を取り直して俺の方へ尻を突き出す。ぜえぜえと肩で呼吸をする白龍の股間、陰茎は固く勃ち上がったままで、その先からは透明の蜜が、ぽたりぽたりと伝い落ちるのみ。尻を、太股を、そして性器をぶるぶると震わせ、白龍はドライオーガズムの波に呑まれている。先程まで責めを受けていた肛門は厭らしくはくはくと開閉して、中の赤く熟れた粘膜まで見えそうなほどだ。
「ケツの穴ほじられてメスイキしたのかよ、アンタ」
「っ……」
「ちゃんと答えろ」
「ッおォッ!」
 もう一度その尻を思いきり叩いてやれば、がくんと腰を跳ねさせ、白龍がこくこくと首肯する。そそり立った男根から先走りがとろとろと溢れ出し、白龍の足の間に水溜まりが広がっていく様子は、彼が今の行為で興奮していることをはっきりと示していた。
「すげえなアンタ。今のでそんな興奮するんだ」
「ぁ……ア、」
「そんなに命令されんのが好きなの?」
 びく、と分かりやすく白龍の尻が震え、肛門がきゅうと収縮する。
「嫌では、ないな……」
 そう返す声は息こそ切れていたものの、愉悦に震える体とは裏腹に淡々としていた。もう少し恥じらうような態度を期待していたが、この男にそんなものを望んでも無駄なのだろうと思い直す。それに、恥じらいがあろうがなかろうが、白龍という男の体があまりにも蠱惑的だということに変わりはなかった。
 まるで責めを待ち望むように突き出された肛門が、浅ましく開閉を繰り返す。俺は白龍の尻を鷲掴みにすると、左右の指をそれぞれ二本ずつ、ずくりと後孔に突き立てた。
「あ、ぁヒィ!」
 指の開く限りに、みちみちと肛門を抉じ開ける。ぽっかりと口を開けた穴の内側、赤く充血した直腸の粘膜までも丸見えになって、その中が飢えるようにびくびくと痙攣しているのが分かる。
「ケツの中までヒクヒクさせて、すっげーやらしい」
 ふ、と笑みのような吐息が漏れて、俺は顔を上げた。テーブルに手をついたまま白龍がこちらを振り返って、口元を笑みの形に歪めている。俺が勝手に妄想していた、情欲にどろどろに溶けて濡れた瞳ではなく、慾に溺れつつもどこか焚きつけるような眼差しが、俺を真っ向から射抜く。
「犯したくて仕方ないくせに、よく言う」
 尻を嬲られている男が発するとは思えない、ぞっとするような煽り文句。自分自身の中で燻る熱が一気に爆発するのを感じて、俺はもう耐えられなくなった。
 指で拡張した肛門に、性器の先端を押しつける。指を離せば括約筋がきゅっと締まって、がちがちに勃起した俺の男根の先をくぷりと銜え込む。それだけでもびくんと跳ねる白龍の腰をがっちりと掴んで、俺は肛門を捻じ開けるように、ずぶ、と腰を進め始めた。
「っく、がァ……ッ!!」
 いくら指で広げたとは言え、それとは比べ物にならない質量の肉棒を突き入れられ、白龍の肛門がめりめりと押し広げられる。直腸の襞を引き伸ばしながら男根を押し進め、ぎちぎちと締め付ける粘膜の熱をダイレクトに感じる。がくがくと白龍の腰が震え、太股が痙攣して、ぜえぜえと荒い呼吸が、寝室の中に響き渡る。けれどもぽたぽたと、その陰茎の先から蜜が床に滴り落ちていて、決してただ苦しいだけではないことが分かった俺は、容赦なく白龍の中へ男根を突き入れていく。
「半分くらい入ったか。ちょっと慣らしてやるよ」
「っ!? まッ、ぐァ、んほォッ!」
 陰茎を一度引き抜いてから、どずんと中を突き上げる。めり、と内側の粘膜へ一気に熱をねじ込む感覚。白龍の上半身が仰け反り、がくがくと小刻みの痙攣を繰り返す。腸壁の締め付けが一段と強くなり、赤い粘膜を覗かせ捲れ上がる肛門が激しく収縮したのを見て、俺は白龍がまた絶頂に達したことを察した。
「何回メスイキしたら気が済むんだ?」
「ぁが、ヒ、うごッ、かっ、はゥっ!」
 少し男根を引き抜いては、更にその奥へ食い込ませる。腰を動かしてより奥へと進むたび、絶頂の余韻に震える白龍が身を捩らせて喘ぎ、内壁がきゅうきゅうと陰茎を締め付ける。俺自身の敏感な部分を白龍の直腸に擦り付けるように抜き差しを繰り返して、いよいよ亀頭球の上までが銜え込まれて。俺はそこで最後の一押しを決めるため、半分ほど男根を引き抜いてから、最奥まで思いきり、腰を打ち付けた。
「ぉごォッ!!」
 ごりゅ、と先端が腸壁を突き上げる感覚。ばちゅんと肉同士のぶつかる音と共に、白龍が大きく体をしならせ、全身の筋肉をびくびくと震わせる。結腸を抉られた白龍の性器から、びゅるる、と勢いよく迸る精液。根本まで挿入した男根が食いちぎらんばかりの勢いで締め付けられ、絶頂の余波でうねる肉壁の熱さと柔らかさを感じながら、俺もまた自分自身の限界が近いことを悟った。
「っハ、アンタ、結腸ハメられたのが、そんな気持ちいいかよ」
「ぁ、ぅ……」
 のろのろと白龍が首を振ろうとするが、今回俺はそれで許すつもりはなかった。
「気持ちいいかって聞いてんだよ。返事もできねえのか?」
「ィ、ひギィッ! き、きもちッ、い、ひィィンっ!」
 ばちん、ばちん、色白の尻に真っ赤な手形が浮かぶほどの強さで、俺は白龍の尻を打ち据える。一発尻を叩くたびに白龍の体が跳ね、内壁をびくびくと痙攣させていたが、何度目かのスパンキングの瞬間、その体がまたもや大きく仰け反った。
「ア、ぁヒいィッ!」
 赤く腫れた尻を突き出すように身を捩らせ、白龍の陰茎からびゅる、と精液が放たれる。俺自身を締め付ける内壁もまた勢いよく収縮して、男根に集まった熱が、一気に爆発する。
 俺は言葉にならない咆哮を上げながら、ぎゅる、と搾り取られるように白龍の奥底へ射精した。それとほぼ同時に亀頭球がぼこりと膨れ上がり、ただでさえ引き伸ばされていた白龍の肛門が更にみちりと拡張される。がっちりと嵌り込んだ状態で、俺はスパンキングで絶頂を迎えた白龍の腸内へ、どくどくと精液を流し込んでいった。
「ハ……、ケツ叩かれてイッた気分はどうだ?」
「おゴッ、ぁ、グ、っ……!」
 括約筋を無理矢理に広げられる感覚と、己の奥底に精液を注がれる感覚とに晒されて、白龍が身を大きく仰け反らせて喘ぐ。びくん、びくんと跳ね上がる尻をぐっと抱え込んで、しばらくは抜けそうにない結合部の、裂けそうなほどに薄く伸ばされた肛門の襞を指先でかりかりと引っ掻く。
「良かったなあ、アンタのケツ穴にちゃんと入ってんぞ」
「ぁア、あ、んぅッ、」
 ほんの少しの刺激でも、絶頂を迎えた直後の白龍には毒なのだろう。大袈裟なほどに身をくねらせ、腸内をひくつかせて俺の指に反応してみせる。肛門を引っ掻くたびに中の粘膜がきゅうきゅうと縮まるのをひとしきり楽しんでから、俺は白龍の下腹部へと手を回した。
「イッたばかりなのに、もうチンコ勃ってんの?」
「あッ、ひ、ひぃァ!」
 己の吐き出した精液でどろどろに汚れた肉棒は、絶頂に達したにも関わらず既に勃起し始めており、無造作に掴んで扱いてやると俺の掌の中で緩やかに固さを増していく。鈴口をいたぶるように指の腹でぐり、と強く押せば、白龍がぶるぶると尻を振って押し寄せる快楽に身悶える。ぬらぬらと厭らしく腰が揺れて、まるで俺の手に性器を擦り付けているようだ。
「そんなに犯され足りねえか?」
「っ、お前こそ、犯し足りない、だろ、ゥんッ、」
 体は貪欲に快楽を求めているのに、どこまでも可愛げのないことを平気で言う白龍に、俺は正直言って滅茶苦茶に欲情した。現に、まだ白龍の中に収まったままの性器に熱が戻り始め、少しずつ質量を増していくのを感じる。その一方で、射精の終わった亀頭球がようやく萎んできたので、俺は一度白龍の中からずるりと肉棒を引き抜いた。
「ッあァ、」
 肉の擦れ合う感触に、白龍が身を震わせる。男根が抜けて銜えるもののなくなった肛門はぱっくりと厭らしく口を広げたまま、ぼたぼたとだらしなく精液を垂れ流す。すっかり拡張されて緩まった尻に、俺はまたもや平手をお見舞いした。
「ぎゃッ、ぅヒィ!」
「ザーメン漏らすな。ガバガバのケツ穴しっかり締めろ」
「ひゃぐッ、わか、った、んンゥ! たたか、なッ、でェッ、っオぉ!」
 叩かれる度に尻をぶるんと揺らしながら、白龍が必死に下半身に力を入れる。赤く熟れた肛門がきゅうと締まるのを確認してから、俺は尻を打ち据える手を止めて、真っ赤に腫れ上がった尻をさわさわと撫でた。筋肉の引き締まった尻たぶは度重なるスパンキングで敏感になり、俺の愛撫にも反応してびくんびくんと震えてしまうようだ。
「やらしい尻してんな、ほんと」
「っ、お前が、叩いたくせに、」
「叩かれて興奮してチンコ勃ててんのはアンタだろ」
「うるさい、」
 反論する白龍の声が少し小さくなったので、俺は面白くなってしまった。
「素直に認めろよ。ケツ叩かれて興奮してんだって」
 そうからかった直後、白龍が俺を振り返った。俺を見る深紅の双眸。ただ愉悦と羞恥に溺れる色だけではない、俺を喰おうとする獣の獰猛さが爛々と輝いていて、俺は息を呑む。
「ごたごた言う、暇があったら、とっととペニスを、突っ込め」
 は、は、と荒い呼吸を繰り返し、頬を上気させながら、白龍が身も蓋もない言い方で煽るように俺を睨んでくる。この男は快感を貪欲に求めているが、快感に支配される気などまるでないのだと、何とはなしに俺も分かり始めてきた。そして、この男の陳腐で見え透いた挑発に、俺自身がどうしようもなく煽られているということも。
 俺は白龍の胸に手を回すと、ぐいと思いきり体を引き寄せた。意図が掴めずに困惑したように振り返る白龍の手が、テーブルから離れる。
「床に手ついて、ケツ上げろや」
 俺の言葉を聞いた白龍は、無言でそれに従う。己の精液で汚れた床に両手を置き、体をまるでくの字に折るようにして尻を突き出す。散々の折檻で赤く腫れた尻肉の間、必死に締めている肛門が責めを期待するかのようにひくつき、こぷ、と精液を溢れさせていた。
 白龍は男の中でも体格が良い方だろうが、俺よりは一回り小柄で、腰の位置も少し低い。俺がその引き締まった腰を掴み、挿入しやすい高さに腰を引き上げると、その足が爪先立ちになり、ぐう、と少し辛そうな呻き声が漏れる。だがそうやって体を持ち上げたことで、俺の男根の先端が白龍の肛門にぴたりと重なった。その感覚に気づいたのだろう、ひくひくと蠢きの強くなる後孔に、俺はいきり立った逸物を捻じ込んでいく。
「くオッ! んご、ォふ……ッ!」
 一度亀頭球で拡張された肛門は容易く花開いて陰茎を迎え入れ、中に注がれた精液が潤滑油となって俺はさしたる抵抗もなく腸壁を抉じ開けて性器を挿入していく。熱で溶ける粘膜を擦り上げ、内側の襞の締め付けを割り開き、男根がずぶずぶと白龍の中を犯していく。最初はゆっくりと腰を進めていき、その厭らしい肛門が俺の性器の大半を銜え込んだところで、俺は白龍の最奥を突くべく、ばちんと一気に腰を打ち付けた。
「ぉ、ッほォ!」
 ごり、と腸壁の奥を抉る感触。白龍の太股がびくびくと痙攣し、腕の力が抜けて頭から床に崩れ落ちる。腰だけを高く上げた無理な姿勢で結腸を抉られ、それでも白龍の体は肛門をきゅんきゅんと収縮させ、興奮の渦に呑まれている。その腸内にねっとりと締め付けられ、俺自身の熱も昂り、白龍の中で急激に膨れ上がる熱を更に高めるように、激しく腰を振って何度も何度も白龍の結腸を突き上げた。じゅぶ、ぬぽ、中に溜まった精液が掻き混ぜられる卑猥な水音と、肉のぶつかり合う音が、寝室に響き渡る。
「ンほ、ッごぉ、ァ、がッ、ア……!」
「イイ声で鳴けるようになってきたな」
「ぁが、うるッ、さ、ォおッ、ぉアァッ!!」
 ずどんと腰を打ち付けた瞬間、白龍が電撃に打たれたようにびくんと背中を仰け反らせた。ぶしゃあ、精液が勢いよく飛び散る音、俺の性器を呑み込む腸内が激しく痙攣し、肉棒を思いきり締め付ける。俺の視界も白く爆ぜて、どくんと脈打つような感覚と共に、びゅるる、と白龍の体内に精を放つ。
亀頭球が膨らみ、白龍の肛門がみちりと引き伸ばされる。それさえも快感なのか、微かに喘ぐような声を漏らす白龍の赤く熟れた尻に、俺は掌を当てた。
「っ、」
 びくん、と体が跳ね、腰がぬらりと揺れる。俺はほくそ笑んで、散々に叩かれじんじんと熱を持った尻を、ぐりぐりと撫で回す。
「何だ? そんなに叩いてほしかったか?」
「そんなわけが、あるか……っ」
「ケツ振りながら言っても説得力ねえよ。ああ、そう言えば」
 期待か、恐怖か、身構えるように力が入っていた白龍の体から、ほっとしたように力が緩んだ瞬間を逃さず、俺はその尻をばちん、と叩き据えた。
「ぎひィッ!」
「今度から、イくときはちゃんとイくって言え。言えねえならお仕置きだ。分かったか?」
「っ、わか、った……」
 嫌ではないという言葉通り、この男は命令されることにどうも弱いらしい。渋々といった風ではあるが、それでも白龍がぶるりと身を震わせ、従順な返事を寄越す。はあはあと肩で息をする白龍の両足が爪先立ちのまま、ぷるぷると震えているのに気がついて、俺は深く繋がった白龍の腰を抱えたまま、床に膝をついて体勢を低くした。
白龍の腰から上が、床にずるりと崩れ落ちる。う、と白龍が呻いたのは、その体が己の放った精液の海の中に投げ出さされたからだろう。日に当たらない色白の肌が、腰まで届くほどの艶やかな黒髪が、粘り気のある白い液体で汚される。その卑猥な光景に俺は舌なめずりをしながら、萎み始めた亀頭球をぐぽ、と引き抜き、まだ勢いの衰えない陰茎を中から引き摺り出した。
「んごおォッ!」
 ぶびゅ、聞くに耐えない淫猥な音と共に、閉じきらない肛門から精液が溢れ返る。俺はそのだらしない尻をまた一度叩いて穴を引き締めさせると、床に体を投げ出す白龍を置いて立ち上がり、ベッドの縁に腰掛ける。
「早く立てよ」
「ンふ……ぅッ……」
 のろのろと白龍が立ち上がり、俺の足の間、固く勃起して天を突く陰茎を目の当たりにして、ごくりと生唾を飲み込んだ。ぺたぺたとこちらへ歩いてくる白濁塗れの男の性器もまた、固く勃ち上がっている。
「俺にケツ向けて、自分で腰下ろせ」
 そう命じると、白龍が無言で頷き、俺の前に背を向けて立つ。少しだけ足を開き、がに股で腰を下ろして、少し窮屈そうにこちらを振り返りながら、スパンキングで赤く熟れた尻を俺の男根へと近付ける。突き出した尻の間、肛門がその赤い粘膜を覗かせるほどにひくつき、ぽた、ぽた、と精液を垂らす無様な姿が、座っている俺からは丸見えだ。
「んッ、くうゥ、」
 そびえ立つ性器の先端が尻の割れ目を擦り、白龍がびくんと身悶える。自身が漏らした俺の精液でどろどろに濡れた尻は俺の男根を滑らせ、なかなか受け入れることができない。二度、三度と挑戦して、いきり立つ肉棒の先端が肛門の縁を掠め、ずく、と腸内に呑み込まれる。
「っほッォ!」
 ぶしゅ、と結合部から飛び散る精液。がに股に開いた太股をがくがくと震わせながら、白龍がその肛門を厭らしくひくつかせ、俺の陰茎を銜え込んでいく。
「くぉ、ンふゥ、う! ぁぐ、ぉほンッ!」
 白龍が腰を下ろしていくたびにぶしゅぶしゅと白濁が滴り、開きっぱなしの口から喘ぎ声が迸る。艶の欠片もないその声が却って煽情的で、絡み付く腸内をめりめりと割り開いて陰茎を挿入する感覚も相俟って劣情を無茶苦茶に駆り立てられながら、俺は自ら巨大な男根を受け入れる白龍の、肉襞が厭らしく盛り上がりびくびくと開閉する肛門を見ていた。肛虐の悦びに打ち震える筋肉質の体。もっと辱めてやりたいと思ったときには、俺は白龍の腰を掴み、俺の膝の上へ勢いよく座らせていた。
「ぉごっ、ォほオぉッ!!」
 どずん。鈍く肉のぶつかる音が腹の中から響いて、その瞬間白龍の体が大きくしなった。ようやく半分ほど入っていた陰茎を全て突き入れられ、直腸の最奥、結腸へと繋がる曲線を肉棒の先端で抉られた結果、俺の膝の上で白龍ががくがくと震え、仰け反り、叫ぶ。天を突くほどに勃起した性器から透明の蜜がどっと溢れ、俺の熱を銜える腸壁が淫らな収縮を小刻みに繰り返すのを感じて、俺はこの男が今日何度目かのドライオーガズムに達したのだと理解した。
「結腸ハメられて、メスイキか?」
「ぁ、あぐ、んゥ……」
「てか、イくときは言えって言ったよな。言いつけも守れねえのか、アンタは」
「ッ!? あ、ひぎァ、あァっ!」
 股間を広げた状態で座り、力なく俺に凭れ掛かる白龍の性器を鷲掴みにして、いきり立つ竿を思いきり握り締める。悲鳴を上げる白龍に構わず、俺はだらだらと先走りを垂らす尿道口を指でこじ開け、拡張するようにぐりぐりと嬲り始めた。
「ぁがア、ひィ、いたィッ、ひギイィっ!」
「お仕置きだから痛くて当然だろ」
 涙を流しながら白龍が身悶えるが、俺の手の中の逸物は一向に衰える気配がなく、肛門もひっきりなしに収縮を繰り返し、俺の男根にしゃぶりついてくる。尿道を責められて興奮しているのは一目瞭然で、だから俺はその手を緩めることなく、白龍の尿道をほじくり回し続ける。
「あアァっ! も、や、ヒぐうゥッ!」
「そんなに悦ばれちゃ、お仕置きにならねえな」
「ひぎッ、ひャぶ、いッ、あぐ、イひぃっ、イ、くゥッ!!」
 叫びながら、白龍が背中を大きく仰け反らせる。俺の手の中で弾ける熱、びゅるる、と精液が噴水のように放たれ、肛門がびくびくと力強く収縮して俺の陰茎を締め付ける。性器を直接に襲う刺激と、俺の命令通りに射精した白龍への興奮で、俺の中で限界まで昂っていた熱が遂に弾けた。どくんと大きな脈動を感じた瞬間、電流のような興奮が凄まじい勢いで陰茎を駆け上がり、俺は亀頭球をぱんぱんに膨らませながら、どぴゅ、と大量の精を吐き出した。
「あうッ、っふ……」
 膨らんだ亀頭球が栓になり、動くこともままならない状態で、白龍が俺の膝の上、最奥に精液を注がれてびくびくと身を震わせる。射精の余韻で俺の体も震えており、自身の中で渦を巻く熱を宥めるように、ふう、と息を一つ吐き出した。大体は一度の交合で音を上げる相手ばかりだったから、ここまで何度も交わり、絶頂を迎えるのは初めてだったのだ。そうしたくなるほど、白龍の体は蠱惑的であり、俺の嗜虐欲を駆り立てる存在だった。
「ほんと、すげえな、アンタ……」
「何が、だ、ッくゥっ、」
 まだ手の中に収めていた白龍の陰茎、くたりと固さを失ったその先端を指でつうと撫でる。同性を容易く受け入れるこの男の過去に何があったかは知らないが、きっとその箇所も性感帯として開発されているのだろう、びくんと肩を跳ねさせる白龍の耳元で、囁くように声をかける。
「今度はちゃんとこっちも可愛がってやるよ」
「……っ、」
 返事の代わりに、まだ繋がったままの肛門がきゅうと収縮し、俺の陰茎を締めつける。この男が興奮しているのだと分かって、俺は笑い出しそうになった。
「アンタ、本当にやらしい体してんのな」
「そういうのが、好きなんだろう、お前も」
「はは、違いねえ」
 認めざるを得ない。俺の欲望を余すところなく受け止めた白龍という男に、俺はひどく興奮していた。あれだけ淫らで無様な姿を晒しておいて、気付いた頃には淡々とした調子に戻りつつあるところも含めて、だ。
 射精の後、膨らんでいた亀頭球が徐々に萎んでいく。己の中の圧迫感が消えていくのを感じたのだろう、白龍が俺の手を退かせて足に力を込める。立ち上がろうとしていることに気づいた俺は、慌てて白龍を止めようとした。あれだけ何度も欲望をぶつけられた相手が、立てるなどとは到底思えなかったから。
「先にシャワー、浴びるぞ」
「待て、無理すんなって」
「馬鹿にするな、っ、んあッ、ひゥっ」
 ずるりと陰茎が腸壁を擦る感覚に腰を揺らしながらも、白龍が立ち上がる。男根が抜けた瞬間、緩まった肛門からぶぴゅ、と精液がこぼれ落ちて、太股をどろりと伝い流れ落ちていく。その感覚に不快とも快感ともつかぬ表情を浮かべながら、それでもふらつきもせずに立っている白龍を、俺は信じられない思いで凝視してしまった。
「何だ」
「……いや、なんでもねえ」
 俺の視線に気づいた白龍が胡乱げに睨んでくるのに慌てて手を振って、シャワーを浴びるよう促す。風呂上がりに巻いていたタオルを拾い上げた白龍が、セックスの前よりは覚束なく、それでも危なげのない足取りで寝室を出て行くのを、俺は呆然と見送るしかなかった。

 白龍と入れ替わりにシャワーを浴びた俺は、寝室に戻るなり思いきり顔を顰める羽目になった。
「んゲホッ、アンタな、」
 下着一枚でベッドに腰掛けた白龍が、煙草を燻らせている。左頬の傷も気にならないほどの端整な顔立ちの男が気怠げな目で煙草を咥えている姿は、観賞用の絵としては扇情的だったが、嗅覚が人間よりも鋭い俺は煙草の臭いがどうにも苦手で、そればかりに神経が行ってしまう。寝室の入り口で立ち尽くしていると、白龍が察したのか、ああ、と手元の煙草を灰皿に押しつけた。
「苦手か? 悪いことをした」
「いや、言ってなかったしな」
 そもそも白龍が煙草を吸うことも知らなかったので、言いようがなかったのだが。仕方がないと割り切って、煙草の残り香が漂う寝室に入り、ベッドへと近付く。あれだけ床に飛び散っていた精液は綺麗に拭き取られ、そういう後処理も含めて全部この男がやったのだと思うと、改めて俺は白龍の体力に舌を巻くしかない。
「寝ても良い?」
「ああ」
 白龍が座っている横に腰を下ろしてから、下着姿のまま大の字で広いベッドに寝転がる。体にどっと襲いかかる疲労感。一度のセックスでこれほど回数を重ねるのは初めてだったから、さすがに少し、疲れたようだ。はあ、と大きく深呼吸をすると、白龍が俺の顔をじっと覗き込んできた。疲労の痕などまるで滲ませない、澄ました表情。
「お疲れのようだな」
「こんだけヤッたの、初めてなんだよ……大体は一回でもう無理って泣かれるからさ……」
 正直にそう言うと、白龍が面白そうにくつくつと笑みを漏らす。
「なるほど、想像に難くない」
「チンコ見ただけで逃げられたこともあったし」
「まあ、気持ちは分からんでもないな」
「とか言って、アンタ、全然平気じゃねーか」
「平気ではないぞ。流石に尻が痛い」
「そう思ってる顔には見えねえ……」
「そいつはどうも」
 そう言ってから、白龍が俺の目を見つめる。血の色をした双眸が艶めかしく笑んで、挑むように細められる。
「それで、俺を抱いてみて、これからお前はどうするつもりだ?」
 俺がこいつを誘ったときの言葉をそっくり返すような質問。あの時と同じだ。俺がどうしたいかなんてとっくに見抜いていて、その上でそう訊いているのだ。この男はどれだけ人を煽れば気が済むのだろうか。
 隣に座る白龍の尻へ、俺は手を伸ばす。ぴくりと眉を動かす白龍に構わず、下着越しに尻の割れ目をなぞり、未だ熱を持った肛門をぐに、と刺激する。ぐっと何かを堪えるような顔になった白龍を見上げながら、俺は意趣返しのように、できるだけ意地悪く声をかけてやる。
「アンタがまた結腸ハメられて喘ぎたいなら、俺は付き合ってやるけど?」
 ふ、と笑みを漏らした白龍が、俺の性器へと手を伸ばした。下着の上からやわやわと睾丸を揉みしだかれ、背筋をぞくりと這い上がる快楽。思わず息を堪えた俺を、白龍は楽しそうに見下ろしている。
「お前のペニスを満足させてやれる相手が、他に見つかるとは思えんが」
「なんか、もうちょっと可愛い言い方はできねえのかよ」
「生憎と、そういうサービスは対象外だ」
 嫌なら他を当たれ。そう言って不敵に笑う白龍と俺がセフレの関係になるのは、当然の成り行きだった。